マツリズム

【令和二年度ハレの日インタビュー】佐島の秋祭り(愛媛県上島町)

2021.02.26

 

瀬戸内海に位置する愛媛県上島町の「佐島」。人口が500人程の小さな島ですが、毎年10月の第2土日月に開催される、佐島の八幡神社の例大祭「佐島の秋祭り」には、隣の弓削島、生名島の人々も応援にかけつけ、島一番の盛り上がりを見せます。その「佐島の秋祭り」ですが、新型コロナウィルスの感染拡大を鑑みて、令和2年は神事のみの縮小開催となりました。 マツリズムでは、その佐島の秋祭りの方々に平成30年からお世話になっており、今回は令和2年祭典部長の檜垣さん、次期祭典部長の柏原さん、佐島の八幡神社の禰宜である福田さん、そして市田さんにお話を聞かせて頂きました。


日時:2021年2月7日(日)11:30~13:00
話し手:佐島秋祭り担い手:檜垣さん(2019祭典部長)、福田さん(禰宜)、柏原さん(次期祭典部長)、市田さん
聞き手:大原 学、藤井 大地、高田 翔太郎 、伊藤 悠喜
 

 

 

目次【記事の内容】

  1. 神事のみの開催。いつもと違うハレの日。
  2. だんじりと神輿がない中で生まれた「祭り」
  3. みんなが祭りのことを「ちゃんと」考える機会になった
  4. 「好き」が生み出す、祭りを続けるエネルギー

 
マツリズム:

新型コロナウィルスによる感染拡大の影響で、2020年の祭りが軒並み中止となりました。2021年も見通しの立たない中で、そんな中でもマツリズムとして何かできることがあるんじゃないかと考えました。そこで、担い手の方々に直接お伺いする話から、近い将来生きてくる価値観や、他の地域に役立つかもしれない知見が得られるのではないかと思って、このような場を設定させていただきました。

 

神事のみの開催。いつもと違うハレの日。

 

マツリズム:

2020年の祭りの中止はいつ頃に、誰がどのように決定したのでしょうか。

檜垣:

8月くらいですね。佐島区の役員さん達や、神社の総代さんとか、僕らだんじりの世話役とかが集まって話をしたんですけど、「コロナ禍で難しいね」と、区の方で決めていた感じですね。僕らはなにも言いようがなかったですね。

マツリズム:

しょうがないよねという感じだったのでしょうか。

檜垣:

そうですね。そんな中ででも、だんじりの乗り子は中学三年生までしか乗れないんですけど、その子達は卒業のお祭りができなかったんですよね。それはちょっと可哀想なので、何かできないかなと思ってたんですけど、何もできなかったですね。その代わりに、もし今年お祭りができるのであれば、乗りたかったら是非乗ってもらおうかなという感じですね。中三まで乗ってなんぼなんで。

マツリズム:

僕らも2019年に参加させていただいた時に、境内で行われた中学三年生の乗り子、ちょうど檜垣さんの娘さんでしたね!その引退式(卒業式)を見せてもらったんですけど、大事ですよね。節目ですもんね。

檜垣:

僕らだんじり世話人も、小学3年生からずっと見てる子供達なんで、その子達も7年間乗ってきてるのでちゃんと卒業させてあげたいという気持ちはあったんですけど…

マツリズム:

祭の当日はどんな事をされたんですか?

福田:

実際に神事の方は例年と全く変わらない時間帯に行わせて頂きました。

檜垣:

総代さん、宮司さん、当屋さんだけで御霊を持って地区周りをしている様子です。(写真)

 

御霊を持って地区周りを行う

柏原:

例年であれば神輿の中に御霊を入れて、海にお連れするんですけど、今年は神輿が出せないので、宮司が箱の中に御霊を入れてお清めをさせて貰っています。(写真)

檜垣:

僕らもこういう風な姿を見たのは初めてです。必ず神輿の中に御霊が入って海までお連れしているので。

御霊の入った箱を海にお連れする様子。

マツリズム:

過去にもこういう事は無かったんですか?

福田:

私が神職になってから15年、子供の頃も考えてもこういうことはなかったですね。祭りの時間を短縮したりっていうのは、昭和天皇が崩御なされた際にあったと思います。

マツリズム:

神事に関係ない方は集まりもせず、という感じだったのでしょうか。

福田:

そういうわけでもなく、今回神事をするにあたって、だんじりの世話役の人とかは御旅所の準備をして下さったりとか、色々なことをお手伝い頂きました。

マツリズム:

それをやった日は10月のいつ頃だったんでしょうか。

福田:

日曜の例大祭当日ですね。

マツリズム:

土曜に行っていた伊勢参りの代わりの神事も行われたのでしょうか。

福田:

それも行いました。来年度の当屋さんを決めるまでの神事は全部やった感じです。
当屋さんも本来15軒あるんですけど、代表の方3軒程集まって頂いて、おのぼりさん、おくだりさんとか、コケコッコー神事もやりました。

うちの家族とかも、例年であれば人が多くて入れないんですけど、今年は人が少なかったので、息子も鳴くことが出来ました。

マツリズム:

普段出来なかった方が今年は出来たんですね。

檜垣:

それこそ女性がコケコッコー神事に入ったのも今回初めてでしたね。

マツリズム:

元々慣習として女性は参加していなかったんですか?

福田:

佐島の八幡神社の神様が女性の神様なんですよね。あくまで言い伝えなんですけど、女性が祭りに関わると、神様が嫉妬をしてしまうというのがあって、だんじりも女性の神様を表す形ですね。

檜垣:

未だにお神輿さんは女性は担げないです。だんじりは女性も担げるんですけど。

福田:

最近はそういう垣根も無くそうかという話も出てきていたりして、女性の方にもご協力を頂かないと、祭りも回っていかないっていうのはあります。
 

だんじりと神輿がない中で生まれた「祭り」

 
福田:

例年なら、佐島の秋祭りの”クライマックス”であり、担ぎ手の気力・体力を全て出し尽くす”宮入り”があるんですけど、2020年祭り当日の夜の、神社の中に御霊を入れる直前の写真を見て頂けたら面白いかと思います。(写真)

境内に運ばれた御霊。例年であれば神輿の中に納められている。

檜垣:

これは御霊を神社の境内まで持ってきた状態で、普段なら御霊がお神輿さんの中に入っていて、いつもだんじりでお神輿さんを追いかけ回していると思うんですけど、今年は御霊を神社の中に普通に宮入りさせるのも面白くないねって話から、だんじりに見立ててこれをやりました(写真)

即席のだんじり

檜垣:

例年だんじりで御霊を「ちょうさじゃー!」って追いかけてたと思うんですけど、今年はこのだんじりでそのパフォーマンスを何回かやってました。

70年以来のだんじりの乗り子に

檜垣:

この写真の上に乗っているのは神社の総代さんなんですけど、総代さんこそ、だんじりに触ったり乗ったりすることって何十年も前の話なので。

福田:

70年ぐらい前の話だと思うので。

檜垣:

みんなで担ぎ上げられて、とても喜んでましたね。

福田:

うちの息子も乗せていただいて、例年より面白かったって言ってました。

マツリズム:

これ、祭りですね(笑)

マツリズム:

例年、祭り当日は忙しさと疲れでお酒を飲む機会がない感じでしたが、今年はどうでしたか?

福田:

まずこんなにゆっくり呑むことはなかったですね(写真)

総代、宮司、禰宜、だんじり世話役が集まった

檜垣:

加えて総代さん、宮司、禰宜、僕らだんじり世話役でゆっくり呑むってなかなかない、中でも総代さんと一緒に飲むことは普段、お祭りの時もない、初めてのことでしたね。

マツリズム:

神社の総代さんはどういう方達なんですか?

福田:

総代さんは3名いらっしゃいまして、私と宮司と総代の5人で神社のことについて決めていきます。なかなか総代さんとだんじり世話役は接する機会がなかったという点では、今年の祭りっていうのは新しい形で、私自身も楽しかったですね。

マツリズム:

そういった方達以外の方は来なかった感じなんですか?

檜垣:

あんまり声かけて密になってもいけないんで。あとは当日御霊の地区周りの際にお手伝いして頂いた方に集まって貰いました。

檜垣:

2020年度に初めての試みで還暦祝いとしてだんじりの上で太鼓を叩くのを行ったんですが、本当はやる予定だった還暦の方がうずうずしちゃって、祭りの掛け声をしましたね。

柏原:

結構騒いじゃったんで、近所の人がみんななんじゃろなんじゃろって道まで出てきてましたね(笑)
 

みんなが祭りのことを「ちゃんと」考える機会になった

 
マツリズム:

だんじり、神輿は中止になってしまいましたが、その中でも、あえて良かった事って他にありましたか?

檜垣:

お祭をやるやらないって話が出た頃から、区と神社さんと、僕らだんじり世話役、御神輿さんといった、いろんな役回りがあるんですけど、例年のお祭りではバラバラだったんですよね。だけどやるやらないの話をしてる中で、お祭りの色んなやらなくちゃいけないことをみんな把握していないような状況がわかってきて、みんなが祭の事をちゃんと考える機会になったと個人的には思いました。

柏原:

結構言い合いみたいな感じな事もありましたけど、普段お互いが思ってる事を確認できたかなと。

市田:

日頃から喋っていない人との関わりが増えたとは思います。

福田:

神社サイドとして感じた部分は、檜垣さんもおっしゃられたように伝えてるようで伝わってない事がたくさんあるのかなと。今後、祭を継続していくためにどういった形で伝えるのが一番良い方法なのかを私自身も模索していかないとなと。住人の方が減少していることは目に見えているので、祭りの形が変わることはあると思うんです。実際に神輿当番は今年から5年に1度から3年に1度に変わろうとしていて。形は変わっても、佐島の祭を細くても長く残していく方法を氏子の人も含めて考えていく必要があるのかなと思いました。

市田:

神輿当番が5年に1度から、3年に1度になると、だんじりのかきてが少なくなってしまうんですよね。だんじりの運行が中々厳しくなってくると思います。

マツリズム:

2年前の時でも結構大変でしたもんね。

檜垣:

そんな中で弓削島や生名島の方から応援が来てくれてるというところがあり、マツリズムも来てくれて、外からの協力がないと成り立たないようなお祭になっていく、もうなっているんで。そこらへんをだんじり世話役だけではなく、佐島区全体で考えていかないとこの祭りを残していけないのかなと思っています。

佐島の祭りの核となる神輿とだんじり(令和元年の祭りの様子)

マツリズム:

祭が中止や縮小になって町にネガティブな変化はありましたか?

市田:

毎年祭りのために帰ってきてくれてた人が、ほぼいなかったですね。

檜垣:

近所のおじさんおばさん方にしても「今年は寂しいなあ」って、去年はよく聞きましたね。その点僕らは神社で楽しませてもらってたんですけど(笑)

マツリズム:

他の弓削島、生名島のお祭りもだんじり、神輿は自粛だったんでしょうか。

檜垣:

全部自粛してましたね。神事しかしていないと思います。

マツリズム:

2019年に参加した時は島ネットワークがいいなと思ってたんですけど、祭がないことによる他の島とのコミュニケーションへの影響はあったのでしょうか?

福田:

祭りだけの繋がりではないですから、島を越えた地域行事とか。祭りのために付き合いをしているというわけではなく、普段の付き合いの延長線上に祭があるって関係ですね。

檜垣:

来年の3月に岩城島と橋が開通するんですけど、今まで佐島と岩城島は同じ日に祭をやっていたので、関わりがありませんでした。この橋で祭の協力のあり方が変わるかもしれないですね。僕らも岩城のお祭りに参加してみたいところもあるので。

市田:

橋の開通式でそれぞれの地区のだんじりを担ぐんですけど、コロナでどうなるかは分かりませんが、それは見る価値あると思いますよ。
 

「好き」が生み出す、祭りを続けるエネルギー

 
マツリズム:

最初にマツリズムを受け容れる際のハードルはあったんでしょうか?

檜垣:

ハードルは正直何もなかったですね。だんじりのかき手が少ないことは、毎年の問題ではあったので、そこにお手伝いに来てくれるという事は有難い話でしたし、その話を区に話した時も、全然受け入れるといった感じでしたね。実際来て頂いてからも、「良かったね~」という話しか無かったですね。

柏原:

元々佐島の祭がよそから来てもらってやってたりするので、排他的な祭りではなかったんですよね。是非どんどん来てくれという感じで。

檜垣:

多分佐島の人の性格というか、元々オープンな島なんだと思います。移住者が入ってくることに対してもハードルがないです。

マツリズム:

祭りを続ける上で大事にしたい事はありますか。

福田:

今後本当に人が少なくなってだんじりも神輿も出せなくなっても、神事としては続けると思うんですよ。細くなっても維持していく、たとえばだんじりを一基にするとか。まあ基本は変えない、変えることはできないと思います。

檜垣:

だんじりって神事の余興的な部分なんですよね。お祭りを盛り上げるための。神事は変わることはないんですけど、だんじりの点とかを変えるというのは致し方ないのかなと思ってはいます。それでも2基ちゃんと出していきたいと思いますけどね。

マツリズム:

今年はどうされていくんですか?

檜垣:

全く予想がつかないですね。様子を見ながらといった感じです。

柏原:

夏頃に様子を見て、その状況でどうするかの話を始めると思う。

檜垣:

言ってしまうと、だんじりって密の代表的なものじゃないですか。みんなが集まって大声でつば飛ばしてますし。一番危ない(笑)

マツリズム:

大きな祭りはオンライン化の動きがありますが。

福田:

僕の立場ではあまり言うべきではないかもしれませんが、祭って人が集うツールだと思ってるんですよ。佐島を離れてる人が帰ってきて交流するとか、隣の島とかマツリズムとか、日頃話をしない人と交流するツールとして考えてるので、今年は例年通りやりたいなと思っています。

檜垣:

やっぱり祭ってリモートじゃ駄目だと思うんです。直接会って、肌で触れあうとかが無いと、お祭りは成り立たないと思いますけどね。

マツリズム:

担い手のモチベーションは?

柏原:

僕は単純に祭が好き。何が好きなのかなあ。

福田:

たぶん柏原さんはMなんだと思う。喉、肩痛めて…

柏原:

それは間違いなくあると思う。祭りがあって、肩が痛いのが楽しい。祭好きは大体ドMだと思う。

マツリズム:

純粋にそういった感覚が好きだから続ける感じなんですかね?

檜垣:

僕も小さいころから太鼓叩いて、祭に関わっているんで、なんか10月が近づくとそわそわしてくるんですよね。

福田:

病気ですね。

檜垣:

病気やね。10月近づいてくるとやらなきゃなぁといった感じで。多分それを子供の頃から親から植え付けれたと思います。

市田:

個人的には責任者じゃない頃は楽しんで参加してたんですけど、責任者の立場だと祭自体を俯瞰した立場で見ないといけないんですよね。責任がありますし。他の島の祭りだと自由に出来るんで楽しく出来るんですけど、やっぱり地元の祭りなので子供達とか、帰省してくれた人、余所から担いできてくれた人とかが楽しんで帰ってくれたらなぁといった気持ちでやっていますね。

福田:

周りが楽しんでくれれば嬉しいです。

檜垣:

僕らは世話するんで。

福田:

佐島が好きなんでしょうね。そういう意味では。

柏原:

そうやね。祭が好きってのもあるけど、この島が好きってのもある。

マツリズム:

久しぶりに画面越しに佐島のあたたかさが感じられて、みなさんと話してるのがすごい懐かしい気持ちになりました。感染症以外にも変化に対応してきたっていう事が強みになっていると思いました。

檜垣:

今年も神事は必ずあると思いますが、だんじりを出せる状況になれば、また是非佐島にお越し頂けたらと思います。

神輿を担ぎながら海に入る様子(令和元年度の祭りの様子)

※記事内の写真は令和元年度のお祭りと、令和二年度の神事(緊急事態宣言解除中に換気などの感染対策をした上で撮影)の様子です。

 

記事:藤井大地(マツリズム 学生インターン)