マツリズム

【令和二年度ハレの日インタビュー】古川祭(岐阜県飛騨市)

2020.05.03
毎年4月19日、20日に開催される、岐阜県飛騨市の春の風物詩「古川祭」。マツリズムでは平成29年から参加させてもらっていましたが、新型コロナウィルスの影響で今年のお祭りは中止(神事のみ縮小開催)になってしまいました。
マツリズム主催の古川祭体験ツアーを受け入れてもらっていた「殿町青龍会」の担い手のみなさまに、祭り当日、本来であれば1日目の「起し太鼓」の真っ最中の時間に、オンラインでお話を伺うことができました。地元で祭りを支える皆さんの率直な気持ちや今後に向けた思いを、ぜひご覧ください。

 

  • 日時  :令和2年4月19日 19:30~21:00
  • 話し手 :古川祭 殿町青龍会(中村会長、中屋直前会長、尾賀さん、井端さん)
  • 聞き手 :一般社団法人マツリズム(大原)、令和元年古川祭参加者(細田、佐藤)

主な話し手(殿町青龍会:中村会長)

主な聞き手(マツリズム:大原)

目次【記事の内容】

  1. 古川祭の中止判断の経緯と、担い手の率直な思い。
  2. 日本におけるお祭りの意義とは。

古川祭の中止判断の経緯と、担い手の率直な思い。

マツリズム:

Facebookの「飛騨市ファンクラブ」の、今日の更新はご覧になりましたか?アップされた町の写真を見ると、人の姿が全然ないんですよ。
規模縮小ということで、神社の境内で神事は行われていると聞きましたが、お祭り当日なのに、町に人の姿がないことが、本当に寂しい。

 

令和2年4月19日お祭り当日の古川の町。例年であれば古川祭一色隣、提灯が立ち並ぶ通りも今年は閑散としている。(Facebookページ「飛騨市ファンクラブ」より)

中村:

神事は気多若宮神社の境内で、10人ぐらいの人数で執り行われているらしい。
お祭りはその神事だけで、恒例のお神輿も獅子舞も、今年は全くなし。
お隣の高山祭(高山市)も同じで、神事以外は中止になったのだとか。
日本全国のお祭りが中止になっているのかな?

マツリズム:

全国でマツリズムが関わっている地域に限れば、7月開催予定のお祭りまで、中止または規模縮小という判断を聞いています。
他には、8月のねぶた祭り(青森県)も既に中止が発表されていました。多くの観光客が集まるようなお祭りの開催は難しいでしょうね。

中屋:

昨年、マツリズムのツアーで珠洲市(石川県)のお祭りに参加させてもらったけど、住職が「奥さんが天皇が死のうが関係ない。祭りは開催する」と言っていた。あれはとても衝撃的だった。

マツリズム:

古川祭の中止が決定した時期と、その経緯について教えていただけますか。

中村:

中止が決まったのは確か、3月24日頃だったと記憶している。中止の判断にあたって、神社の偉い方々はどうすべきかをかなり悩んだと聞いている。その結果、結局はこんなご時世(=新型コロナウィルスの流行やそれに伴う自粛要請)だからということで、判断したのだろうな。お祭りをやるかどうかについては氏子の僕たちは主張ができず、あくまで神社に決定権があるんだよね。言い方は悪いけど、ここまでの状況になっちゃったのを見ると、正しい判断だったとは思うよ。我々にとっては寂しいけどね。

中屋:

この分だと、来年も古川祭はできないんじゃないかと思ってる。

昨年のマツリズムツアー参加者との様子。衣装を来ている方が中村さん、横でしゃがんでいる方が中屋さん。
マツリズム:

東日本大震災があった平成23年も、古川祭の中止が判断されたと聞いています。
今回は当時と比べて何が違うと感じていますか。

中屋:

前回は、「お祭りやればいいじゃん」という意見がたくさんある中での中止だった。
でも今年は、「やるべきではない」という意見が多かったという点が違うかな。
同じ自粛でも、大きく違うように感じる。前回は納得。今回はしゃあない。

中村:

飛騨市内ではまだ新型コロナの感染者は出ていないけど、お祭りをやれば当然、たくさんの観光客が全国から来てしまう。

中屋:

飛騨市は医療機関が少ないから、感染者が4人くらい出たら医療崩壊してしまいそう(苦笑)。なので、絶対に感染者を出すわけにはいかない。

中村:

古川のような田舎では、感染者第1号になると、誹謗中傷を受けるという恐怖心もあるんじゃないかな。

中屋:

ああ、54年と半年の人生で、4月19日をこんな形で迎えるのは初めてだわ。

マツリズム:

そもそも古川祭は、どのくらい続いてるんでしたっけ。

中村:

古川祭の開始は、寛永時代(1624年〜1645年)からと聞いている。
祭りは国家繁栄や五穀豊穣を祈念するものだから、このような状況でも敢えて催行すべきじゃないかという意見も当然ある。
でも、国家の安全の前に、人の安全を守らなきゃいけない。


日本におけるお祭りの意義とは。

中村:

こんな状況だと、マツリズムとしてはこれまでの事業をやるのが難しいんじゃないの?

マツリズム:

その通りです。お祭りが次々と中止になっているので、お祭りに参加するツーリズム事業が実施できない状況です。だからこそ、ツーリズム事業以外の新しい事業や取り組みに向けて、いろいろトライしたいと思っています。

中村:

細田のとこの町でも、お祭りは中止なの?

マツリズム:

私の地元である東京都墨田区の両国では、お祭りは例年8月に行われますが、今の時点では中止かどうか決まっていません。
東京のお祭りは、今の時点で中止を発表しているとこもあれば、公言してないとこもあります。
今回の件で感じたのですが、お祭りの本来的な目的は神事なのでしょうが、地域独自のお飾りとか、お神輿とか起こし太鼓とか、地域性を強く感じます。
そんなお祭りを、神事だけで済ませられるということになってしまうと、お祭りを継承させることに疲弊していた地域では、お祭りを縮小させてしまうのではないかと危惧しています。
お祭りにおける神事の意味合いが肥大化しちゃうんじゃないでしょうか。

中村:

いや、我々の祭りではそれは考えられない。
やっぱり、古川祭は町民のお祭りだから、起し太鼓は、神事とは別物だよ。

中屋:

少なくとも、地域におけるお祭りの必要性に関する議論はしておくべきかもしれない。

マツリズム:

マツリズムの中でも、「地域にとってのお祭りをやることの意味は?」などの議論をすることがあります。
大震災や台風などの自然の影響や、今回の感染症を含めると、10年間で二回もお祭りが中止になった地域が多いと思います。
これをきっかけに、お祭りをやめてしまう人や地域が増えてしまうことも考えられませんか。

中屋:

いや、お祭りをやめる人は増えないと思う。
少なくとも、やる気がある地域では、お祭りをやめたりしない。これをきっかけにお祭りを縮小させてしまう地域があるとすれば、それはそういうとこ。
俺たちは100%、そんなことはない。

マツリズム:

みなさんのように、お祭りを絶対やるんだ!って人がいれば、大丈夫なのだと思います。

中屋:

マツリズムが関わっているお祭りは、どこもそんなやる気のある地域なんじゃない?(笑)

中村:

マツリズムには是非、日本全国いろいろな地域の祭りが今後も残るように取り組み続けてほしいと思うよ。
あれ、佐藤さん(マツリズム参加者)は福島の出身だっけ?相馬野馬追とかあるよね。

マツリズム:

夏のお祭りで、もう少し経つとお祭りを検討する時期になるはずです。
古川祭みたいに、まちのみんながお祭りのために1年間準備しているわけじゃありませんが、馬を飼育してる人がいるので、そこに苦労があると聞きます。
この季節に福島に行くと、海岸で野馬追の練習してるんですよ。
起し太鼓もそうですが、やっぱり野馬追も盛り上がります。

中屋:

中学生とか、馬に乗ってみたい人が多いんじゃない?
そういうお祭りは、絶対つぶれないんじゃないのかな。
今後、今回の新型コロナの影響でどんどんお祭りの規模が小さくなっていくのは寂しいなあ。
日本全国の祭りを残すこと、マツリズムの責任はそこにあると思うよ。

マツリズム:

やりたい気持ちさえあれば、何かしらの方法があるはずです。三密がだめなら、それを避けれる方法が必ずあるはず。古川では、当面コロナ収束を待つ予定ですか?

中村:

待つしかないかなと思っている。いつ収束するかわからないけど。

井畑:

今回の感染症のことでお祭り中止した地域はいっぱいあるだろうな。でも、そもそもお祭りの趣旨として、国家安泰とか疫病祈願などが含まれているんだから、「元気ですよー!!」って、今こそみんなを巻き込んで何かやるべきじゃないかな。

中村:

俺たちは古川祭が中止になって不完全燃焼なので、蘇民祭(岩手県)以外で今年開催予定のお祭りがあれば参加したいな。
祭りサミットも。

マツリズム:

今年のサミットは、またテーマを変えなければいけないかもしれないですね。

中村:

全国の祭りの担い手さんは、今回のことでエネルギーが溜まっちゃってるはず。そのエネルギーをつなげて、何かして欲しいよね。マツリズムに。

令和元年の古川祭(青龍台)の様子。無事に起し太鼓を終え、全員で達成感に浸る。
 

記事:今場 雅規(マツリズム)