マツリズム

【令和二年ハレの日インタビュー】とも旗祭り(石川県鳳珠郡能登町)

2020.05.19

快晴の空にたなびくとも旗(令和元年の「とも旗祭り」の様子)

石川県能登町の「とも旗祭り」は、小木地区にある御船(みふね)神社の春祭りとして、毎年5月2日・5月3日に行われます。1日目は早朝からふれ太鼓が祭りの始まりを告げ、6時過ぎには、紙で作られた巨大な「とも旗」を掲げた9隻が出航し、湾内を巡航します。2日目にはさらに神輿も出されます。
そんなとも旗祭りも、新型コロナウィルスの感染拡大を鑑みて、令和2年度は神事のみの縮小開催となりました。
とも旗祭りの担い手の一人である灰谷さん(庄崎町内会・前運航責任者、役場職員)に、今の心境を聞かせていただきました。

 

  • 日時  :令和2年5月3日 16:00~17:00
  • 話し手 :庄崎町内会・前運航責任者(灰谷さん)
  • 聞き手 :一般社団法人マツリズム(大原)

 

とも旗祭りの灰谷さん(下段)と、マツリズムの大原(上段)

目次【記事の内容】

  1. 祭礼が縮小となった能登町の様子。
  2. 「とも旗祭り」中止の経緯。
  3. お祭りが地域に与える影響とは。
  4. 逆境だからこその発想。

祭礼が縮小となった能登町の様子。

大原:

コロナウィルスの影響で全国的にお祭りの中止や規模縮小が、9月くらいまで決定されていく中で、我々マツリズムとして何ができるのかと考えたんです。
地元のみなさまにとっては、お祭りが中止になったとしても、お祭り当日は無情にもやってきますよね。そういう日にしか感じられないような想いとか、お祭りが開催される前提で準備されてきたものが、きっとあるのだと思います。そのようなお話を担い手さんから伺うことで、地域にとっても他の祭りの担い手にとっても貴重な情報アーカイブになると信じて、このような取り組みを試行しています。よろしくお願いします。
さて、例年であればお祭りの当日となりますが、今日はどのように過ごされましたか。

灰谷:

実は、午前中に家族で御船神社に行ってきたんです。朝、漁師である父(氏子総代の代表)が出漁の準備をしていたので、「境内の神事は終わったのか?」と尋ねたら、「終わった」ということだったので、それならば神社にお参りができるということで。

 

御船神社(令和元年の「とも旗祭り」より)

例年、5月3日は決まって風が強い日が多く、湾内は波とうねりがある状況だったのですが、今年はとても穏やかでした。こんな(環境の良い)日にお祭りができないのは残念だと、宮司さんと嘆いていましたね。
港を見ると、お祭りに使用する伝馬船(てんません)は出ておらず、その代わりにいつものイカ釣り漁船がある状況。お祭りの当日という雰囲気は一切感じられませんでした

能登町小木地区の港(令和元年の様子)

大原:

確か今頃は、ちょうどクライマックスに近づいていく時間でしたよね。

灰谷:

今日は本来であればお祭り2日目なので、船以外に神輿も出されていたはず。ちょうど今頃は、神輿を御座船に乗せて湾内を巡行してる時間帯だったでしょうね。それで18時過ぎまでやっていたはずです。

大原:

現在の能登町小木地区のご様子はいかがですか?

灰谷:

緊急事態宣言の中でも、石川県は特定警戒都道府県の一つ(※インタビュー当日時点)なので、状況は厳しいですね。宿泊施設はほとんど営業していないんじゃないかと思います。また、連休に入ってから、県内の「道の駅」は全て閉鎖になっていますよ。空港(のと里山空港)もほとんど飛行機が飛んでいないです。


「とも旗祭り」中止の経緯。

灰谷:

お祭りのシンボルである「とも旗」を作るために2ヶ月の期間がかかるのですが、3月中に旗を仕上げられるように地域で作業を進めていました。そして、とも旗の完成直後の4月6日に、祭礼の中止が決定されました

大原:

「とも旗祭り」では、どのような立場の方がお祭りの中止を決定するのですか?

灰谷:

祭礼委員会の委員長と、3人の副委員長が急遽集まって判断、という形でした。祭礼委員会は、小木地区各町内会、小木地区地区壮青年連合会の長、御船神社氏子総代会で構成されています。

今年、私はその祭礼委員会には入っておらず、父が氏子総代の代表で、祭礼委員会の副委員長をしています。

大原:

お祭り中止が決まったのは、ちょうど最初の緊急事態宣言が発出される直前ですね。その時、灰谷さんは率直にどのようにお感じになりましたか?

灰谷:

3月の中旬頃、中止が決定する前にとも旗を作っている時期は、「今年のお祭りはどうなるんだろう?」という程度だったと記憶していますが、3月の末頃になって、さすがにこのような状況ではお祭りの開催は無理だろうと思いました。

5月31日に、私が事務局長を務める、地域団体主催のイベント「イカす会」(イカのお祭り)というものを企画していたのですが、3月31日の時点ではもう中止を判断しようとしていました。志村けんさんが亡くなって、石川県内の感染者数も増加傾向になってきて。だから、私以外の住民にとっても、とも旗祭りが中止となるのは仕方ないという気持ちだったと思います

町内の他の地区ですが、7月の1週目に開催される、能登町で一番大きな「あばれ祭り」も、まだ3か月前ですが、中止が決定されました。そこは、「あばれ祭り」が一年で最大の行事だというほどの地区なのですが、そんな地区でも中止を決めざるをえない、そういう状況がいま起きているんだと痛感しました

令和元年の「とも旗祭り」の様子


お祭りが地域に与える影響とは。

大原:

「とも旗」を作る準備はほとんど終わっていたのに、祭礼が中止となることが決定したんですね。そのような状態で今日を迎えられたわけですが、気持ちや地域に対してどんな影響がありましたか?

灰谷:

人口が減るにつれ行事が減っていき、日常生活の中では町に住む方々と話す機会がほとんど少なくなっているので、お祭りが数少ないコミュニケーションの場なんですね。ですので、そういったコミュニケーションの機会がなくなったということが大きいです。実際、祭礼の中止が決定された4月6日以降は、一度も集まってません。地域の方々が集って、良いことも悪いことも話せる「場」がなくなってしまったので、このことは今後かなり大きな影響を与えるのではないかと感じています。

お祭りのこれまでを振り返ると、天候上の理由で、2日間のうち1日は巡航できなかったという日はありました。それでも地域のみんなは港に集まって、お酒を呑むという場がありました。天気に対して文句を言いながらとか。笑

今回は、集まること自体がNGです。伝馬船の運航がないということは見えることですが、集まる場がないというのは…。

大原:

先日インタビューをさせていただいた古川祭(岐阜県飛騨市)の担い手の皆様も、地域で集まる機会がなくなってしまったことを嘆かれていました。

灰谷:

この町に住んでいるからこそできる、「とも旗祭りをやる・体感する」ということが、なくなってしまう。すると、この町に住んでる意義のようなものを感じられなくなってしまいます。そんな状態で住んでるのってどうなんだろう…と感じてしまいますよね。

また中学3年生が授業の中で(各町内会の持ち回りで)1つの「とも旗」を作っているんですが、今回中止になってしまったため、披露される場がなくなってしまったことで、彼らの思いの行き場がなくなってしまっています

お祭りというのは、町内の人が集まって、コミュニティを育てていく場だったんだなと痛感しています。そんな場がなくなってしまったことで、不安感はさらに増しますね。

大原:

今年完成したとも旗が今年お披露目できないということですが、来年に向けて保管されるのですか?

灰谷:

私の町内会では、来年のとも旗祭りに使おうかと話してます。ほとんどの町内会も、来年に使うのだろうと思います。

大原:

祭礼の催行に必要な、寄付集めはすべて終わられた状態でしたか?

灰谷:

それは終わっていなかったと思います。とも旗祭りは、基本的に町内会費で賄うことが通例なので、準備にかかった費用は、祭り後に集めるはずだったと思います。

今回の中止で、地元の酒屋さんや飲食店が被った影響は計り知れないなと思います。お祭りがなくなってしまうのは、地域経済にとってかなり大打撃ですね。飲食以外にも、小売店・宿泊業への影響も大きいと思います。今は休業している宿泊施設もかなり多いです。

周辺の自治体では、七尾市の、有名な「でか山」が出される「青柏祭」も中止になっていますし、その周辺の宿泊施設も閉めてると聞いています。

大原:

この時期から能登半島一帯でお祭りが多いですよね。

灰谷:

お祭りは能登地域の人にとってのアイデンティティでもありますが、全国的に見ても特徴的なものが多いので、それらを観に来る人は多かったはずです。

小木地区のとも旗祭りは2日間だけですが、能登地域では集落ごとにお祭りがありますので、今後多くのお祭りが中止になっていくと、地域経済にかなり影響が出てくると思います

大原:

小木地区では、そろそろ秋祭り(小木袖キリコ祭り)の話などは出ていますか?

灰谷:

町内では例年、5月末か6月頭頃から袖キリコの武者絵を書き始めるのですが、どう対応するかという話はそろそろそ出てくるはずだと思います。ただ、先述の通り、当面は話し合いの場がないので、どうなるか分からないというのが実情です。


逆境だからこその発想。

大原:

新型コロナウィルスの影響下で、町の方々が取り組んでいる何らかのアクションはありますか。

灰谷:

私は役場の職員でもあるのですが、行政としては地域経済に対してどのような支援ができるか検討を進めています。

一方で、このような状況下だからこそ正義感が強くなってきている人が多くいると感じるので、ちょっと変な事をするとすぐ叩かれてしまうという恐れもあります。危機感を持つことは大事ですが、海の祭大会議の冒頭で、大原さんが小島よしおさんと「そんなの関係ねぇ!!」のパフォーマンスをしたような、遊びの部分、ああいった空気が必要ですよ。笑

今は、あのような楽しい雰囲気を出しづらいご時世ですが、ゆくゆくはあの時のような、遊びの部分を出したいなと思っています。ちなみに先日、町長に、「イカす会」が表彰されたことの受賞報告にいったのですが、私はあのイカの被り物をして町長室に入室しましたよ。笑

ただ、今では私があのイカの被り物をしていても、周囲が慣れているのでインパクトはないのですが、例えば他の人が被るなど、今のこわばった気持ちを少しでも和らげてあげないといけないなと思ってます。

受賞報告の様子。一番左でイカを被っているのが灰谷さん。

大原:

昨年のとも旗祭りに来ていた2人の高校生はどうしていますか。

灰谷:

能登町に帰ってきてると思います。昨日、太鼓の音がきこえたんですよ。彼らが多分、太鼓を叩いて回ってたんじゃないかな。

もちろん、町の人に苦情が出て叩かれてしまう恐れはありますが、実際はああいったことが必要なんですよ

大原:

太鼓の音色って、胸をざわつかせる不思議な力がありますよね。きっと高校生なりに、色々と考えてるんでしょうね。

灰谷:

自分が楽しいだけじゃなくて、楽しさは周りに伝播していくという事に気づいているんじゃないかな

大原:

同じく昨年来ていた、東京大学の学生とは連絡をとられていますか。

灰谷:

最近連絡できていなかったのですが、まさに連絡をとってみようと思っていたところです。
ちなみに、3月に能登で地震があったときに、学生たちが心配して連絡をくれたことがありました。

また、昨年の夏に能登町で活動した東大生がいるのですが、その中の一人のお母さんが手作りのマスクを50数枚作って送ってくれたので、集落のみんなに配りました。

お祭りの担い手の方々と談笑する大学生(令和元年の「とも旗祭り」の様子)

大原:

我々も、こんなご時世において明確なブレイクスルーを持っているわけではありませんが、灰谷さんが、こんな事ができたらいいなと思い描いていることはありますか?

灰谷:

これからはオンラインが当たり前になって、今までの価値観が大きく変わると思います。
もともと、能登町内の高校生を対象としたビジネスコンテストをやろうと思っていたんですが、それもオンラインでならできるかもしれません。
オンラインであれば、より気軽に都市部と能登町を繋ぐことができるので、交流のきっかけを作ることができるかもしれません。そこで縁が生まれたら、コロナが終息した頃に、都市部から能登に行ってみたいということになるかもしれない。今日だって、大原さんが昨年能登町に来てくれたからこそ、このオンライン会議が成立してるんですよね
能登町を訪れた人が、オンラインでどんどん人を巻き込んでいくような、そんな繋がりで色々な可能性が生まれるんじゃないでしょうか。

大原:

灰谷さんは、仕事柄もあって、オンラインでの交流にある程度慣れておられると思うのですが、地域としてみた場合はいかがでしょうか。

灰谷:

今のところ、このような形(ZOOM)での会議は、私が知る範囲では少ないですね。
役場内で、オンラインで対話の場を作ろうかという話は進めています。体験したことがない人にとっては、それにどんな意味あるのかと言われてしまいます。でも、実際に体験をすると、考え方が変わってくるのだと思うんです。
能登町は人口が約1万7千人ほどいますが、オンライン会議を使っている人数は、100人いるのかどうか。親が、都市部に出た子供たちとのコミュニケーションに活用していたら、人口の10分の1くらいにはなるかもしれませんね。

大原:

エンターテイメントのような形でオンライン会話を経験してみると、受け入れやすいかもしれないですね。

灰谷:

子供たちに体験させてしまうのがいいかなと思います。我が家では、中学1年生の長男にタブレット渡しました。どうやら、長男は学校に行けていないのに学級委員長に選ばれたらしく、クラスをまとめる会をしなきゃいけないみたいなんです。そこで、その会が沈黙の場にならないよう、副委員長達と事前打ち合わせをするためにタブレットを使ってました。笑

ちなみに、今年はその長男が太鼓を叩いて、主役になるはずの年だったんです。本来の主役は中学3年生なんですが、私の町内会には中学3年生がいませんので。中学生は、太鼓などの経験をして、それを下の子達に引き継いでいくものなので、その経験ができなかったというのは非常に残念です。

大原:

僕も中学・高校と部活をやっていたので、なんとなくわかります。今回のような不完全燃焼は、中高生にとっては大人とは少し違うつらさが残るだろうと思います。

さて、不謹慎な質問かもしれませんが、この状況が続いて秋祭りも中止となり、来年のとも旗も中止となってしまったら、何かお考えはありますか?

灰谷:

来年もまたお祭りが開催できない場合は、昨日の夜聞こえた太鼓のような、ユーモアがあって意味のあること、そんな事ができる環境を作ってあげたいと思ってます。人が集まらない状態でも、太鼓を叩いてオンラインで誰かと繋ぐとか。

そうしたことに批判は起こるかもしれませんが、誰かがやらなきゃいけない。そんな事を思ったのは、まさに昨日の夜に太鼓の音が聞こえてきたからですよ

実は、もしかしたら太鼓の音が聞こえてくるんじゃないかなとは思っていたんですよ。笑

大原:

これまでとも旗祭りに関わってきた人にとっても、新しいお祭りの形になりますね。

灰谷:

一方向的な配信だけじゃなく、双方向のコミュニケーションになる形ができれば理想だと思います。

大原:

我々にとっても暗中模索ですが、今という特殊な時期だからこそできること、やるべきことがあるのかなと思っています。マツリズムが祭りの事やらなくてどうすると。マツリズムがやることで地域のファンを作ることもできるんじゃないかなとも思いました。それが、関係人口の新しい捉え方ということになるかもしれません。
最後に、このインタビューは誰に聞いてもらいたいですか?

灰谷:

そうですね。今日お話したのは私個人の考えですが、共感してもらえたり、さらに良いアイデアを提案してくれる方と繋がりたいので、例えば昨年とも旗祭りに来てくれた学生達などに聞いてほしいですね。例年のお祭りでは、地域を離れた人に思いを届けることができないので、届けられたら嬉しいなと思います
あとは、「海の祭大会議」でお会いしたみなさんにも、ぜひ聞いてほしいなと思います。何か一緒に企画をできないか、ぜひ考えたいですね

 

記事:今場 雅規(マツリズム)